CHANELが特別な理由:一族経営という“独立性”
「なぜCHANELはこんなにも特別なのか?」
ファッションに興味がある方なら、一度はそう思ったことがあるかもしれません。ココ・シャネルの生涯や、アイコニックなバッグたち、そして70歳でのデザイナー復帰の理由(※当時の“ニュールック”への反発とも言われています)など、語るべきストーリーはたくさんあります。
でも今回は、「CHANELがなぜ他のラグジュアリーブランドとは一線を画しているのか」という点に注目してみました。
キーワードは、“独立性”と“一族経営”です。

実は独立系ブランド、CHANEL
CHANELは、LVMHやKeringのような巨大な多国籍コングロマリットに属していません。
それだけでなく、現在もヴェルタイマー一族が所有し、独自の経営方針を貫いています。
これって、実はすごく珍しいことなんです。
多国籍グループに属することで、複数ブランド間でのノウハウ共有や効率化、利益の最大化が狙える一方で――
ライセンスビジネスを強いられたり、他ブランドの赤字のしわ寄せを受けたりするリスクもあります。
一方、CHANELはそのような外部からの影響を最小限に抑え、ブランドの哲学と美学を守り続けています。
オーナーは誰?見えないけれど存在する“一族の信頼”
突然ですが、CHANELのオーナーを見たことはありますか?
私はありません。というより、誰がオーナーかすら気にしたことがありませんでした。
LVMHのオーナーはよく写真に出てきますよね。でもCHANELは違う。
実は、創業者であるココ・シャネルは生涯独身で子どももおらず、ブランドを引き継ぐ相手がいませんでした。
そこで現在、経営を担っているのが「ヴェルタイマー家」です。
彼らがCHANELに対してしていること、それは“全面的な信頼”だと感じています。
長期的な視点が生む、クリエイティブの自由
ヴェルタイマー家のスタンスはとても特徴的です。
現場やデザイナーを信じ、短期的な利益を追わない。効率ばかりに目を向けず、非効率も“投資”と捉える。その姿勢が、CHANELの深さと品格を支えているのではないでしょうか。
思い出すのは、かつて知り合いが事業を上場企業にM&Aされた話。
「未来を語り合ったつもりだったけれど、数年後には短期の成果しか見てもらえなくなった」と、彼は苦笑いしていました。
CHANELのように、時間を味方にできる経営って、今の時代だからこそ貴重に思えます。
カール・ラガーフェルドと築いた“協定”
CHANELのクリエイティブディレクターだったカール・ラガーフェルドは、時に会社の方針とは異なる提案をしたそうです。
それでも彼の考えが優先されるように、「ラガーフェルドを信じる」という合意が、ヴェルタイマー家との間で交わされていたと言われています。
CHANELの銀座店最上階にあるレストランも、業界では前代未聞。
社内外の反対を押し切って実現したのは、オーナーが「コラス(日本法人社長)が言うなら、やろうよ」と背中を押したからだとか。
これも、一族経営ならではの柔軟さと信頼の証だと思います。

CHANELの“特別”は、一族経営が支えている
ファッションの美しさやアイコニックなデザインはもちろん、
その背景にある“経営哲学”に目を向けると、CHANELがどれほどユニークな存在であるかが見えてきます。
「時代に流されず、自分たちの価値を信じる」――
そんなCHANELの姿勢は、ファッション以上に、私たちの生き方にもインスピレーションを与えてくれるのかもしれません。
“ラグジュアリー”を体現する空間:CHANEL銀座店のレストラン
書籍で、CHANEL日本法人のコラス社長が語ったある言葉が印象に残っています。
「CHANELは世界一ラグジュアリーなブランドである。だからこそ、顧客に“最高の時間”や“喜び”を提供するために、レストランは必要なのだ」
この考えに共感し、私自身も銀座本店の最上階にあるレストラン「ベージュ アラン・デュカス 東京」でアフタヌーンティーを体験しました。
(※ブログ内の写真はそのときのものです)
アフタヌーンティーは、レストランのラウンジスペースでいただきます。
特に印象的だったのは、空間に飾られていた“手”にフォーカスした複数の写真作品たち。
それらは、CHANELを支える職人たちの「手の動き」をとらえたアートでした。
「CHANELの料理」や「サービス」という次元にとどまらず、
クラフツマンシップ・品質・伝統といった価値観をこの空間に込め、
訪れる人々とその哲学を共有し、共感してもらうことを目指しているのではないか——そう感じました。
ラグジュアリーとは、ただ華やかで高価なものではなく、
その背後にあるストーリーや思想、そして“人の手”によるぬくもりがあってこそ、心に響くのだと実感した体験です。
機会がありましたら、ぜひこの特別な空間で、優雅な時間と最高の喜びを味わってみてください。
参考書籍:
・『シャネルの戦略』 長沢伸也(編著)、杉本香七(著)/東洋経済新報社