扉が開いた瞬間、まず目に飛び込んできたのは、広々とした空間の中央に設けられた刺繍体験のテーブルと、それぞれの展示ブース前に立つスタッフの方々の姿でした。
CHANELが大切にする「クラフツマンシップの世界」に、これから触れていくことに胸が高鳴ります。
スタッフの方々の装いは、おそらく自身が持つCHANELをさりげなく取り入れていて、ブースを移るたびにそれを見るのもひとつの楽しみでした。
共通の黒いパンツに黒のトップスを合わせつつ、ツィードジャケットや半袖のレザージャケット、花柄のようなベロアジャケットなど、それぞれ限られたアイテムの中でにじみ出る、個性とスタイルがとても印象的でした。
中には、カール・ラガーフェルド時代を思わせる幾重にも重なったパールネックレスをまとったスタッフの姿も。
また、招待客の方々の着こなしにも心を奪われました。
赤のツィードジャケットを軽やかなブラックのチュールスカートに合わせた女性、スパンコールが施された黒のジャケットを肩に掛け、黒いパンツと合わせていたマダム──
どの装いも、過剰ではなく、それでいて自分らしさをしっかりと表現していて。
お声がけして「素敵ですね」と伝えたくなるような、そんな瞬間が何度もありました。
今回の展示で最初に見せていただいたルックに用いられていたのが、ルサージュ(Lesage)による刺繍やツイードでした。
ルサージュは、フランスのオートクチュール刺繍を代表するアトリエであり、2002年からCHANEL傘下のメティエダール(職人アトリエ)のひとつとして、メゾンのクラフツマンシップを支え続けています。
繊細なビーズワーク、立体的なモチーフ、異素材の組み合わせ──ルサージュの手仕事は、単なる装飾を超えて、ひとつの芸術のような深みを持っています。
そしてCHANELにとってルサージュとは、伝統技術を未来へつなぐ創造のパートナー。
メティエダールの精神を象徴する存在でもあります。
CHANELのメティエダールを支える刺繍工房ルサージュ。その卓越したツイード制作の工程を再現したミニチュア織機の展示も印象的でした。
糸と布、そして時間が交差するようにも感じました。

そんな空間のなかで、私の心を強く惹きつけたのが、あるブルーのルックです。

宝石のように澄んだブルーとターコイズ。
その色彩の重なりは、水面と空が出会う場所のような詩的な景色を感じさせました。
このルックのためにルサージュが用いたのは、なんと22種類もの糸。
織り込まれたリボンツイードが光を受けてさまざまな表情を見せ、モダンでフレッシュな息吹を纏っていました。
そして、流れるようなブルーグリーンのシルクジャガードパンツとの意外性のある組み合わせ。
ツイードは、伝統的な仕立てによって身体のシルエットをしっかりと形づくる構築的な素材です。
一方で、ジャガードは光沢や揺れ感によって軽やかな動きを生み、モダンな印象を添えていました。
この対照的なふたつが一つのルックの中で見事に調和し、CHANELらしいエレガンスが静かに表現されていたのです。

ツイードスーツといえば、クラシカルなイメージを持つ方も多いかもしれません。
けれどこのルックは、その固定観念を裏切ってくれました。
このルックを目にしたあと、私は手元にあるCHANELのツイードジャケットのことを思い出しました。
それは、今も日常の中で愛用している一着です。
特別な予定がなくても、朝の気分で袖を通します。
その日誰と会うか、どんな場所に行くか、どんな自分でいたいか──そんなことをひとつひとつ思い浮かべながら、コーディネートを決めています。
デニムにも、ショートパンツにも。
フォーマルに、あるいはカジュアルに。
CHANELのジャケットは、そんなふうに自由で柔軟なものとして、日常に溶け込んでいます。
なかでも、ルサージュによるツイードジャケットは、やはり特別な一着です。
手仕事、美しさ、そして宿されたストーリーの深さ──
肩にかけるたびに、CHANELが職人の手を通して伝えてきたものの重みを、私は受け取っています。
CHANELは飾っておくものではなく、生きるもの。
ツイードは、装うたびにその人の時間に寄り添い、記憶とともに育っていく布なのだと思います。
スペシャルな日に着るから特別なのではなく、
私が着ることで、その日が少しだけ特別になる。
CHANELのツイードが纏っているのは、職人たちの手の記憶だけではありません。
それを選び、まとう人の人生も、またそこに織り込まれていくのだと感じています。
だから私はきっと、またあの一着を手に取ります。
どんな日であっても、それをまとう理由がきっとあるから。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
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メティエダールの魅力を感じられる企画展も2025年秋に東京で企画されています。
「la Galerie du 19M Tokyo」
